温泉と友人

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 大鳥居を抜けると、うなり声を上げるバスが、つづら折れの山道を揺らして登る。曲がる度に一本ずつ見える山桜は、森の中に点在して、平地の桜の時期は終わっていても粘って咲いている。


 山形駅を経由して、蔵王温泉に向かう。1年前、銀山温泉に行って以来、山形は3回目になる。


 景色にまるで興味のない友人は、隣で眠って揺られている。寡黙な男で、趣味で掘っている化石の神秘について語るとき以外はめったに話さない。現場を見たことはないが、片手でリンゴを握りつぶせるらしい。確かに腕が目に見えて太い。蔵王ははじめてだから道に迷うかもしれない。熊が出た時のために連れてきたのだ。


 温泉街に着くと、妙に格好つけた喫茶店でビーフシチューを食べた。友人はまた話さない。トイレの窓は和紙で光が漏れるようになっていて、斜めの木枠が模様のようになっていて、多分アンティークなんだろうと思った 。


 低い松が生垣にされている温泉施設の敷地内には八重桜が植えてあり、道路を挟んで向かいには梅が植わっていた。どうやら松竹梅が一度に楽しめるらしい。


 蔵王はとにかくいいお湯で、特有のにおいともこもこと湧き上がる湯けむりは温泉どころか街全体に充満していた。道端に咲いた水仙の写真を撮った。

 

 帰り際に、そういえばどんな泉質なんだっけと友人に聞いても分からないというので、道で聞いてみると、「お兄さんこのにおいで分からないの?」と笑われながら強酸性の硫黄泉だと教えてくれた。連れている3歳くらいの女の子も「お兄ちゃんばかなのね」という感じでニコニコしている。蔵王はいいところだと思った。 


 振り返ると友人も笑っている。お前が笑うな。蔵王はいいところだと思った。